椎間板ヘルニアとは
脊椎(背骨)は椎骨という骨の集まりです。椎骨には椎体と椎弓と呼ばれる部位があり、その隙間を脊髄(神経)が通っています。椎骨と椎骨の間には衝撃を吸収してくれる”椎間板”というクッションがあります。椎間板は、ゼリー状の髄核が、線維輪という組織に包まれたものでできています。この髄核が飛び出し、脊髄を圧迫してしまうのが椎間板ヘルニアです。(”ヘルニア”は、体内の臓器や組織が本来あるべき場所から飛び出ている状態のことです。)
椎間板ヘルニアの症状
椎間板ヘルニアには重症度を示す段階があります。グレードの数字が大きいほど重症度が高いです。
- グレード1
- 抱き上げるとキャンと鳴く
- 段差の上り下りができない
- 首や腰のあたりで痛みが出る
- 背中を丸める
- じっとする、動きたがらない
- 食欲が無くなる
首でヘルニアが起きているときには、頭を上げにくそうにしたり、前足を上げるような跛行(歩行異常)が見られることもあります。
- グレード2(麻痺が出てくる)
- 歩けるが、少しふらつく
- 足の甲が地面に触れることがある
- グレード3
- 後ろ足を動かすことはできる
- 自分で体を支えるのが難しい
- グレード4
- 下半身が動かせなくなる(感覚はある)
- ほとんど自力で排泄ができない
- グレード5(痛みがなくなる)
- 下半身の感覚や痛みが完全に無くなる
- 自力で排泄ができない
突然のグレード5の症状や交通事故などによる重度の椎間板ヘルニアでは、稀に進行性脊髄軟化症(脊髄が壊死して最終的に呼吸器官が麻痺して亡くなる病気)になる恐れがあります。有効な治療法や予防法はなく、ごく稀に壊死の進行が止まることもあるそうですが致死率はほぼ100%です。グレードが高いほど発症率が上がります。また、グレード1からグレード5へ急に移行することもあるので、症状が軽いからと侮ってはいけません。
椎間板ヘルニアの原因
交通事故などの外からの強い衝撃があったり、激しい運動、老化などで、椎間板は変形し、脊髄を圧迫します。椎間板のどこの部位が変形するかで2つの種類に分かれます。
- ハンセン1型
若いうち(一般的に3〜7歳の間)に椎間板が変性し、本来はゼリー状である髄核が硬くなってしまいます。そして、衝撃があったとき、クッションの役割がある椎間板が衝撃を吸収しきれず、髄核が線維輪を突き破って脊髄を圧迫します。
※生まれつき、軟骨異栄養症(軟骨がうまく発育されないことが原因で骨が短くなる病気)の遺伝子を持った犬種に起こりうるのがハンセン1型です。ダックスフント、コーギーなどの足が短い犬種が椎間板ヘルニアになりやすいというのは有名な話ですが、この軟骨異栄養症の遺伝子が関係しています。
- ハンセン2型
歳を重ねるとともに、椎間板の外側にあたる線維輪が盛り上がってくることで脊髄を圧迫し、症状が出るタイプです。椎間板が少しずつ変形していくので、ハンセン1型と比べてゆっくりと悪化していきます。
椎間板ヘルニアの予防/治療
椎間板ヘルニアの予防
- ソファや大きな段差の上り下りはさせない
- 抱っこは縦ではなく、両前足を持ってお尻を支える横抱きにする
- 太らせない
- 適度な運動(筋肉をつけるため)
特にハンセン1型の犬種は腰に負担をかけないような生活を心がけましょう。
散歩での運動量は小型、中型、大型犬種で変わってきますが、適度な運動ができていれば(特別な疾患になっていない限り)太ることはあまりないと思います。愛犬にとって無理のない範囲で坂道を歩いてみたり、水に恐怖心がない子はプールで泳いだり、歩かせても良いです。
椎間板ヘルニアの治療
痛みだけや比較的に軽度な麻痺では内服治療とゲージの中で絶対安静が必要になります。もちろん散歩も禁止です。外でしか排泄ができない子は、排泄が済んだらすぐ家に連れて帰るようにしてください。
重度の麻痺が起きている場合はCTやMRIでヘルニアがどこで発生しているかを調べ、脊髄を圧迫している椎間板を取り除く手術をおこないます。手術が成功しても、脊髄の損傷が激しい場合は麻痺が残ることがあります。術後は麻痺を少しでも改善するためのリハビリが何より重要です。以前と同じ生活を送ることは難しいですが、リハビリを前向きに取り組むことで、生活の質の向上、維持ができます。
椎間板ヘルニアは放っておくと、愛犬の命に関わる”進行性脊髄軟化症”になる可能性がある怖い病気です。様子がおかしいと感じたら動物病院に行くことを強くおすすめします。
コメント